名言集です。
1
我々にとって、すべてあると云う事は、畢竟するにただあると信ずる事にすぎないではないか。
(芥川龍之介『貉』より)
2
僕等人間は一事件の為に容易に自殺などするものではない。僕は過去の生活の総決算の為に自殺するのである。
(芥川龍之介『遺書』より)
3
今僕が自殺するのは一生に一度の我儘かも知れない。僕もあらゆる青年のやうにいろいろの夢を見たことがあつた。けれども今になつて見ると、畢竟気違ひの子だつたのであらう。僕は現在は僕自身には勿論、あらゆるものに嫌悪を感じてゐる。
(芥川龍之介『遺書』より)
4
わが子等に
一,人生は死に至る戦ひなることを忘るべからず
(中略)
四,若しこの人生の戦ひに破れし時には汝等の父の如く自殺せよ。但し汝等の父の如く 他に不幸を及ぼすを避けよ。
(芥川龍之介『遺書』より)
5
僕は別段必要以上に文章に凝つた覚えはない。文章は何よりもはつきり書きたい。頭の中にあるものをはつきり文章に現したい。僕は只ただそれだけを心がけてゐる。
(中略)
僕は誰に何なんといはれても、方解石のやうにはつきりした、曖昧を許さぬ文章を書きたい。
(芥川龍之介『文章と言葉と』より)
6
(編者補足:ある言葉から連想される心象が、時代とともに大きな変化することに対して)
文章の力の尽きるのは何百年位かかるものであらう?
(芥川龍之介『文章と言葉と』より)
7
(編者補足:芥川が一読者として小説を評価する際の指標について)
では何が僕の評価を決定するかと云へば感銘の深さとでも云ふほかはない。それには筋の面白さとか、僕自身の生活に遠いこととか、或はまた僕自身の生活に近いこととか云ふことも勿論、幾分か影響してゐるだらう。然しそれらの影響のほかに未まだ何かあることを信じてゐる。
この何かに動かされる読者の一群が、つまり読書階級と呼ばれるのである。(芥川龍之介『小説の読者』より)
8
性の上の共通といふ事ことが、果たして、思想や感情の共通といふ事ことよりも、重大な影響があるかどうか疑問である。
(中略)
婦人も、婦人たるより先に、人間なのだから、書物の選擇などに拘泥せず、何どんな書物でも、よく讀んでみるがよい。
(芥川龍之介『読書の態度』より)
9
書物の選擇といふものは、各人の自由に任せる外はない。どういふ本がいゝといつても、讀者が其處まで進すゝんで居なければ、どんな傑作を讀んでも、役には立たない。
(芥川龍之介『読書の態度』より)
10
僕は、如何なる本を讀むかといふ事よりも、寧しろ大事なのは、如何に本を讀むかといふ事では無いかと思ふ。
(中略)
兎に角、何者にも累らはされずに、正直な態度で讀むがいゝ。
(中略)
讀者自身、面白いと思へば面白い。詰まらないと思へば詰まらない。――さういふ態度を、無遠慮に、押し進めて行くのである。さうすると、その讀者の能力次第に、必ず進歩があると思ふ。
(芥川龍之介『読書の態度』より)
11
これは、獨り讀書の上ばかりではない。何でも、自己に腰を据ゑて掛ゝらなければ、男でも女でも、一生、精神上の奴隷となつて死んで行く他は無いのだ。
(芥川龍之介『読書の態度』より)