チベスナダイアリー

誰もまだ此れ程の阿呆の日常をありのままに書いたものはない。

「魔々勇々」の魅力と林快彦先生への賛美〜魔々勇々1話の感想〜

「林快彦」作品の魅力

突然ですが、あなたは「林快彦」という稀代の漫画家を知っていますか?2024年度第19号まで週間少年ジャンプで「魔々勇々」という作品を連載していた人です。

先生の作品は優れたキャラ造形、高い画力、めちゃくちゃ面白いストーリ、魅せるコマ割りで漫画表現の極みに到達してんじゃないの?的なアレなのです。

わたしは読み切り『へのへのもへじと棒人間とパンツ』時代から「こいつはスゲェ天才が出たぞ」といった調子で応援していて、ついに本誌で『魔々勇々』という作品が連載された時は歓喜しました。案の定死ぬほど面白かったです。

あ、読み切りは今でも無料で見れます。言っとくが仰天するほど面白いぞ。

そんななので滅多に紙の漫画を買わない私も「魔々勇々」だけはコミックスで買ってます。流石にこの漫画のためだけに重い本誌を買う気にはなりませんでした。。。

が、その高度すぎる表現による魅力が伝わりきらずあえなくuchikiriの憂き目にあってしまいました。わたしは泣きました。花見の時にワンピースを読むためだけに本誌を購読してるYくんから「今日最終回だったよ」と言われた時は桜が全部散るのが見えました。(優れた心象風景描写)

ですが、コミックスはまだ2巻までしか出ておらず、来る7月4日、3巻発売なんですよね。そこで今回から私が読んで感じた「魔々勇々」の魅力を1話づつ載せていって売上アップに貢献してゆくゆくは次回作が連載されてウフフみたいな感じです。

1話はネットで公開されています。

本気でいくぞ。

「魔々勇々」感想と魅力の紹介

 

1話

1ページ目

は古典的な「勇者」と「魔王」の説明です。魔勇が対比されていていいですね。魔々勇々の魔と勇が魔王と勇者の事なのねとなるわけですね。あとこの青年とょぅι゙ょが勇者と魔王なのかとすぐに分かるのもいいです。

2~3ページ目

1コマ目で魔王だと思われるょぅι゙ょが勇者っぽい青年の保護者っぽい立ち位置だとわかってWOWって感じになりますね。「お前のが保護者なんかい」と「お前ら普通に一緒に暮らしてるんかい」というふたつのギャップが効いている。2コマ目、勇者君が左側に歩いていて、日本の漫画は読者の目線も右から左へって感じで読みやすい。とにかくこの漫画こういう視線誘導がめちゃくちゃ面白いんですよ。あとこのコマから世界の文化レベルがわかります。車とかある感じなのねとか、勇者はもう気にもとめられてないんだなとか。勇者君の後ろが若干白く浮いているのもこの感じに一役買ってると思います。

そして左側の吹き出し、大きめで目を惹きますが、セリフを発している女子高生が死ぬほど可愛くて…自然と視線が止まります。そして舐めまわすようにみているとこの子角が生えていることに気がつきますね。魔人とかいる感じねーとなります。この吹き出し→可愛い女の子→角までの流れ、漫画が上手すぎる。そして左側に抜けていく吹き出しで次ページへの誘導。

4ページ目

取材の体で世界観を伝えるのがいいですね。「終戦」、「共生」、「魔人」、「勇者ハロハロ」、「英雄」などなどキーワードがたくさん出てきてます。

5,6ページ目

ここで初めて勇者君の名前がわかります。4ページ目で過去の英雄や戦争がほのめかされている分、悩みにも共感できますね。魔王の名前もサラッと出てますね。あとコルレオが人助けしててキャラクターとして好印象なのと、やはり勇者が空気と化している描写を同時にやってるのが凄いです。そしてラスト、「自分とは何か、勇者とは何か」悩んでいたと作品の大テーマが伝えられると。この辺から作者特有の奇抜なコマ割りがどんどん出てきて読んでて楽しいですね。テンポがいい。

7ページ目

魔王マママ(38)。38…! ちょっと癖が強すぎる。かわいいですね。本当に。枠線がくどくど…になってるのめづらしくて面白いですね。コルレオと同じような立場の魔王は、同じようには悩んでいないというのもわかります。コルレオの悩みはだからこそ解決困難だと。勇者や魔王たる故は今や手の紋章だけ。

8ページ目

1,2コマ目で「勇者」の象徴として紋章のある手の甲、紋章のない「コルレオ」の象徴としての手の平。悩んでいるのが手だけで伝わります。そして1段目は右から左へ、2段目は左から右へ、3段目は左側へと変則的な読み方をしなきゃいけないところですが、コマ配置で自然に読めますね。凄い(小並感)。マママの目線のコマが不穏ですね。そしてここホントに天才ポイントなんですが、吹き出しに影が付いていてコルレオの心の影を表してますね。これは漫画でしかできない、アニメじゃできない漫画表現の極み。あと椅子から立ち上がるという「縦」の動きが縦のコマ割りに対応してるのも素敵ポイント。最後は枠線を太くすることで自然な場面転換。先が読みたくなりますね。

9ページ目

偉大な歴代勇者が並んだあと、小さなコマでコルレオ君が映ることで、それに比べての矮小さが強調される。「勉強して 食って 寝て ダラダラ暮らして それで それが勇者か?」刺さりますね… 私達現代人もアイデンティティを求めてるわけで、コルレオに共感したくなる。答えが欲しくなる。

10ページ目

写真を求められるくらいには「勇者」ではある。ただそこに実際の功績が伴ってない。名前の重みに耐えられない!ああ!勇者やめたい となるわけです。そして撮った写真が現像されるコマで自然と場面転換。「写真を撮る」ことがコルレオの悩みと場面転換とを兼ねている。天才か???東軍本部へ!!で次のページが気になってめくると…

11ページ目

起承転結の承パート。明らかに雰囲気の違う男。服の質感も伝わってくる書き込み量。てかこの一コマだけで服装とかから明らかに世界観が違うやつだって分かるの凄くないですか??別の世界からやってきた勇者エヴァン。

12ページ目

そんなエヴァンも「紋章」をもつ男であり、魔王と戦う勇者であって、コルレオくんのアイデンティティはより揺らぎます。そして走ってくるマママ。

13ページ目

ページをめくるといきなりの斬撃で読者も作中の人たちもビックリ。感情がリンクしますね。しかもページ上部から斬撃の軌跡が残ってますからね。勢いが伝わる。こういう表現は漫画にしかできない。エヴァンの世界だと魔人は悪なんですね。ただこれで人種差別とかの問題を扱わないのが面白い。あくまで「アイデンティティ、勇者性」の話。

14ページ目

手から離れた剣が下に落ちる。コマの動きも下向き。めっちゃ強い災厄の魔王が来るらしい。読者的にはちょっとワクワクしてしまう。

15ページ目

コマの大きさが全部一緒で面白い。唖然としてる感じが伝わります。そしてステレオタイプ的な秀才、研究者。君読み切りで医者やってたよね?

16ページ目

コマの大きさと語気の強さがリンクしてます。論破されてコマが小さくなってるのも芸細。災厄の魔王が来ることが大問題すぎてあれですが、勇者や魔王が複数いることが問題っぽいのも仄めかされてるんですね。魔々勇々の時代に繋がる。

17ページ目

一人心を震わせるコルレオ。勇者が2人、1人は明らかな「勇者」であって、自身のアイデンティティの問題が深刻化することが予想される一方で、事態が進展するかもしれないというワクワク。災厄の魔王にちょっとわくわくする我々とリンクします。ここからモノローグがコルレオ視点になりますね。細かいですが、コルレオ視点のはフォントが違いますね。

18ページ目

地下牢獄で対峙する2人の勇者。2コマ使って振り向きの動きを表現。こういうの多いですね。動きが伝わってきて面白いしテンポがいいです。最後のコマが左下に視線が向いていてページをめくりたくなる。

19ページ目

めくった途端まさかのエヴァンが話しかけてきて驚きます。コルレオの退屈だと思う平和な世界は、エヴァンから見ると「不思議な世界」。紋章術とやらで出た炎が牢を照らす様子を、コマをぼやかすことで表現。凄すぎる。

20ページ目

コルレオのコマが2コマ並ぶことで、唖然→期待、興奮の感情の変化がわかりますね。「紋章」術と言うくらいあって、紋章をもつ自分でも使えるんじゃないかという期待があったようにも見えます。あとこの辺からエヴァンが何考えてるか分からないようなコマが増えますね。最後のコマ、不穏な目のアップで先が読みたくなる。

21ページ目

めくった途端ワープ!変則的コマ割りで突然感がわかります。セリフのフォントからコルレオの困惑も伝わる。指でスパスパ剣を造形するエヴァン。指が隣のコマに侵食してるのがちょっと面白いです。

22ページ目

話がブレるので剣戟は一コマ目の軌跡だけ。あくまで話をすることがメインなので。これだけでも激しく手合わせしてたのが伝わります。褒められて嬉しそうなコルレオくん、年相応でいいですね。ただその後不穏な3コマ。これコルレオ殺されるんじゃ…?と思わせ、最後のコマで振り始めを描いて次のページへめくらせる。コマの左側がぼやけててスピード感が伝わります。

23ページ目

超スピードで振られた刀がビタッで止まる。枠線と書き文字が同一化していてえげつないですね。前のページで(振り抜かれるのでは…?)と思わせて、めくった瞬間ビタッなので意外性もある。「勇者」とは一体何か。作品テーマの再提示。

24ページ目

「勇者とはなにか」。エヴァンが羨ましいコルレオ。作品の大テーマ。まだ答えは明かされない。最後に左に歩く足が写ってページをめくりたくなる。

25,26ページ目

前のページから続けて足元。葛藤しながらいじめを止めるコルレオ。これこそが「勇者性」だったり。ただ他人からハリボテと呼ばれるのはキレる。

27,28ページ目

めくるとケガをしているコルレオ。ここまで心理描写メインで徹底的にアクションは描かれないですね。「勇者にでもなったつもりか!?」とにかく葛藤。アイデンティティの問題ですね。最後のコマ、手を振り上げるマママのコマ。殴るのか!?と思わせてページをめくらせる。

29ページ目

振り上げた手はコルレオの袖を掴むという意外性。母親としてのマママの描写が深いですね。泣ける。ただ「考えがある」というのは伏線っぽいですね。小さく映るマママ、無力感や後悔が見えていい描写です。

30ページ目

情けねェ… 脳裏によぎるのはマママの顔。母子の愛があったとわかる丁寧な描写でいいですね。溜めパート。かと思いきや最後のコマで急に窓の外が暗くなって先が気になる!

31ページ目

起承転結の転。めくった瞬間現れるエヴァン。マママの方の描写も並行して描かれる。コマを貫通してキャラクターを置いているの、斬新ですね。同じコマにマママがふたりいる。

32ページ目

明らかに雰囲気が変わります。暗黒の海の上、「来たぞ」で先が気になってページをめくると…

33,34ページ目

魔王エンド。明らかにヤバそうな敵。めくった瞬間の驚きと、先の展開への期待を煽るいい見開きです。よく見ると真ん中に小さく勇者ふたりが映っていてエンドのデカさにビビりますね…

 35,36ページ目

人語を話すのが怖すぎる。青春物語からこんな化け物まで、先生の画風の幅広さに驚かされます。これでなお小さいらしいという規格外さ加減。下から伸びる紋章が物語に引き込まれてページを捲りたくなる。

37ページ目

何だこのコマ割り!?圧縮されていく様子を四角く重なったコマで表現。前代未聞、まさに天才。

38ページ目

圧縮されたエンドの前で話すふたり。ここまでのエヴァンの不穏な描写の理由が説明されます。もうどうしようもねぇなコレ。

39ページ目

エヴァンがやってきた理由。コマになびいた服の影が映るのが、エヴァンの元いた世界の暗さを暗示していそうで好きです。そして再び問われる「勇者とはなにか?」の問。

40ページ目

マママ側の描写。コルレオへの親心が垣間見えます。読み進める中で現れる明らかに浮いているエンド。コマの外にポツンといるのがとにかく異常感を醸し出します。そしてその後紋章が光り、痛み出す。最後のコマは左下に流れ、自然とページをめくると…

41ページ目

右上のエンドに繋がる。問われる「勇者性」。エヴァンが若干苛立っていそうなところを見ると、彼もまた勇者とはなにかという問いに苦しめられていたのでしょうか?それに対して返す答えはかつてエヴァンがコルレオへ語ったもの。背景にずっとエンドが写っているのも不穏な感じですね。

42ページ目

あぁ すまない というのが辛い。背景で笑ってるように見えるエンド。マママから力を貰い復活したようです。序盤多用されたモノローグも復活し、話はクライマックスへ向かいます。

43,44ページ目

怒涛のモノローグ。ただ文章が多いわけじゃなく、テンポよく読めます。「勇者」は敵と戦うものではなく、「何かを守る者」である。多分 俺は ああ で先に繋げる

45ページ目

「俺ずっと 勇者になりたかったのか」。勇者やめたい、生まれてこなければよかったと言っていた者が、死の淵で真の勇者に開花する。勇者とは、である者でなくする者。これ最終回ですか???

46ページ目

そしてその振る舞いは、同じく勇者とはなにかという問いに悩んでいたエヴァンに届く。黒塗りのコマで時間の経過を表しつつ、大写しのマママで次ページへ。

47ページ目

同じ大きさのコマの連続。瞬きの描写が上手い。ここで気づいたんですが、こういう小さいコマの連続はテンポの良さや淡々とした感じを出す他に、次にくる大ゴマを魅せる効果もありますね。

48ページ目

命と引き換えにコルレオを蘇生するエヴァン。エヴァンも最後に「何かを守るもの」へと成った。感動的ですね。これ第1話ですか????

49,50ページ目

ここでも語られる「勇者性」。守るために勇む者を、勇者と呼ぶ。ここまでのテーマに一旦の答えが与えられます。絵がうますぎる。

52,53ページ目

エヴァンの最後。彼にもまた守りたかった人達がいて、でも守れなかったのでしょう。「そっち」へと旅立ちます。「みんなで話そう」のコマが若干不穏ですが、次ページでどうでも良くなります。

54,55ページ目

神タイトルコール。ナンバー1と付いていることで気がつくそういやこれ連載だったわ感。最高の走り出し。

 

まとめ

くう疲れました。こんなに長くなるとは思わなかったです。1話とは思えない密度、完成度、もうここだけでいいんじゃないか感。

全体として見ると起承転結がめちゃくちゃしっかりしてるんですよね。承でエヴァンが出てきて、転でエンド登場、結で勇者になると。

あと見開きで言う最初と最後のコマの工夫が凄いですね。めくった瞬間の衝撃感と、先が気になる、ページをめくらせる工夫がこらされています。

難点をあげるなら完成度が高すぎて2話以降の展開が全く予想つかないことですね。

次は2話の感想をあげます。

あげました

「魔々勇々」2話激烈爆裂感想文 - チベスナダイアリー