チベスナダイアリー

誰もまだ此れ程の阿呆の日常をありのままに書いたものはない。

お気持ち回転群勉強ノート(既約表現の構成編)

山内,杉浦「連続群論入門」を参考に、重要そうな話題を並べていきます。物理で使えればいいやの感じなので、厳密性や証明とかは全く無いです。

まずは回転群SO(3)について見ていきます。回転なんか興味無いぜ!と思うかもしれませんが、SO(3)を解析する手法は他の連続群にも役に立ちますし、回転群は物理ではスピンと密接な関係があります。この辺を意識して見てみると面白いかもです。予備知識として、ベクトル空間の基本的な知識と群の公理くらいを仮定しています。

 

 

1,回転群

ユークリッド空間E³にはご存知、成分同士を掛けて足すような内積が定められています。この内積を使ってベクトルのノルム(長さ)とかに2点間の距離とかを定義することが出来ます。

さて、E³からE³への写像のうち、任意の2点の距離を変えないような変換を合同変換と言います。合同変換は「反転」+「回転」+「平行移動」に分解できるのですが、このうち回転に注目します。回転変換全体はSO(3)(行列式が1の3次元直交行列)と同じものと考えて良いです。

回転には軸があるので、その軸方向を基底にとってやると回転変換行列は「軸の垂直面での2次元回転+軸方向不変」と分解されます。(ブロック対角化される)また、回転の自由度は軸の向き2自由度(3次元極座標で向きを表すにはθとφをつかいますよね)、2次元回転1自由度の計3つです。剛体の力学とかだとオイラー角とかも使いますよね。

 軸v周りでvの大きさだけ回す回転をg(v)とし、あとなんか適当な3次元回転をhとします。このとき、hg(v)h^(-1)=g(hv)となります。「なんか回す軸周りなんか戻す」が「軸をなんか回す」と同じです。これがあとで効いてくるっぽいです。

 

2,SU(2)とSO(3)

2次元特殊ユニタリ群(行列式1のユニタリ群)をSU(2)といいます。SU(2)とSO(3)は一見全然違いますが、実はSO(3)と構造がほとんど同じ(局所同型と呼ばれます)です。しかも、SU(2)は2次元なので扱いが簡単です。この辺のことを上手く使って、SU(2)の「既約表現」というのを求めて、それを使ってSO(3)の「既約表現」を求めるというのが目標です。

さて、SU(2)等のような連続群(リー群)からはリー環と呼ばれる何らかの集合がゲットできます。リー環について、ここでは分からなくてよさげです。実はSU(2)のリー環行列式1の2次元歪エルミート行列の集合です。ここではこれしか考えません。リー環はなんかカクカクした文字(フラクトゥール)で書かれることが多いのですが、はてなブログだと読みにくすぎるのでKとしておきます。「かん」のKです。

Kは2次元行列なので、Kの適当な2元に対して内積をTr(AB^bar)と決めてやります。また、SU(2)の元gを何か持ってきて、これを元にKの変換Ad gを作ります。Ad gはX∈Kを

(Ad g)X=g^(-1)Xg

と変換します。これを随伴表現と言ったりするみたいです。Ad gを作用させても、XはKから出ていったりはしません。(Ad g)X∈Kです。しかもトレースの性質から、随伴表現はKの内積を保ちます。つまり、Kの適当な2元の内積(A,B)=(Adg A,Adg B)です。

さて、内積を保つというのは長さを保つということでもあります。実は、Ad g全体の集合は回転変換SO(3)に一致します。Ad SU(2)=SO(3)です。(これは任意の次元で成り立つわけでなく、2次元特殊ユニタリ群の時のみ成り立ちます。)

注意ですが、SU(2)とSO(3)が同じということでは無いです。SU(2)の2元±gは、共に同一の回転h∈SO(3)に対応します。(Ad ±g)=hです。2対1というわけですね。

 

2.1,準同型写像と表現

ちょっとここで群の準同型写像と表現というものを復習しておきます。

準同型写像とは、ある群Gからある群G'への写像であって、「ざっくりと」構造を保つものをいいます。また、準同型写像で結ばれているような群同士を準同型といったりします。定義は任意のx,y∈Gに対しf(xy)=f(x)f(y)を満たすような写像です。

何故「ざっくりと」なのかというと、準同型写像によって構造が失われることがあるからです。例えば、実数全体から0だけ抜いた集合で、演算を掛け算とするとき、その絶対値をとる写像は準同型です。つまり、|a×b|=|a|×|b|です。これは負の数の情報が消えてしまっています。しかし、「『2にまつわるやつ』と『3にまつわるやつ』かけたら『6にまつわるやつ』になるぜ!」みたいなノリでざっくり構造は残ってます。もっと極端な例では、どんな元が来てもG'の単位元に飛ばすような写像準同型写像だったりします。

次に群の表現についてです。群は結局「代数」構造なので、なんか入学直後めっちゃ勉強させられた線形代数(一次変換)の話にできたら嬉しいです。線形代数についてはよく知っているので。群を線形代数に翻訳する時、当然その構造をある程度保っていて欲しいので、先程の準同型写像を使います。これが表現のお気持ちです。つまり、定義は次のようになります。群の表現とは、ある群Gから正則な一次変換群GL(n,C)への準同型写像ρのことを言います。なお、移した先の一次変換が作用するベクトル空間V(表現空間と言います)を明記して、(ρ,V)と書くこともあります。

一次変換は何らかの基底を取ると行列の形にかけます。これを表現行列と呼んだりもします。群は変換!っていうのが見えやすくなって嬉しいですね。

 

3,既約表現をつくる

2節に続いて、SU(2)の既約表現を求めます。(SU(2)の既約表現がわかればSO(3)もわかる!)

表現ρが既約を雑に言うと、Gの位数だけある表現行列がまとめてブロック対角化も三角化も出来ないことです。可約とはまとめて三角化可能、完全可約とはまとめてブロック対角化可能です。(私は愚かだったので、ジョルダン標準形にすればいいじゃん!!とか悩んでました。「まとめて」というのがキモです。)表現が完全可約のとき、任意のg∈Gの表現行列ρ(g)はρ₁(g),ρ₂(g),ρ₃(g)…にブロック対角化できます。数学の言葉で言うと、表現空間Vがρ(G)不変部分空間U_iの直和でかけ、ρ(G)のU_i上の表現ρ_i(g)がすべて既約になるということです。完全可約表現は既約表現で分割できて嬉しいわけです。ちなみに既約表現は完全可約の特別な場合です。

(図とか追記するかもです)

 

ここまでわかると、何がしたいかがより明確になります。我々がやりたいのは、

①SU(2)の任意の表現が完全可約であると示すこと

②そのような任意の完全可約表現を分割する既約表現の存在を示すこと

③その既約表現を見つけること

です。これを頭に置いて、もう少し既約とか可約とかの話をします。さて、表現空間Vに定まった内積を保つような表現をユニタリ表現といいます。(ρ(g)x,ρ(g)y)=(x,y)です。ユニタリ表現は完全可約であることが知られています。後でSU(2)の任意の表現は上手いこと内積を決めてやるとユニタリ表現になることを使って、①を示します。

次に、表現の同値性を考えます。表現は準同型写像で定義されるので、上で書いたように基本的に情報が抜け落ちます。どのような情報が抜け落ちて、どんな構造が残るのかは表現(準同型写像)によりますが、同じ構造を残す表現同士は同値と言ってよさそうです。ここで、2つの表現が(ρ,V)と(σ,W)が同値であることを次のように定めます。

VからWへの一対一の一次変換Aが存在して、全てのg∈Gに対し、Aρ(g)=σ(g)Aが成り立つ時、ふたつの表現を同値という。

このように定めるとVの基底x_iとWの基底y_i=Ax_iで表現行列が全く同じ形になります。

この同値という言葉を使って、シューアのレンマという事実を紹介します。ふーんと思って聞いてください。

2つの既約表現(ρ,V)(σ,W)は、VからWへのゼロでない一次変換Aが存在して全てのg∈Gに対し、Aρ(g)=σ(g)Aが成り立つとき同値である。

間違い探しみたいですが、1対1写像であることを確認しなくても良くなっています。正直この形の使い所は分かっていません。

さて、シューアのレンマは複素完全可約表現(ユニタリ表現と思っておけばよさげです)の時もう少し強いことが言え、こちらの方が劇的です。

完全可約表現(ρ,V)が既約であることと、全てのρ(g)と可換な1次変換がスカラー変換だけであることは同値である。

これでゲットしたユニタリ表現が既約かどうか判定できるようになりました。③で役立ちます。

長々と既約可約について書いてきましたが、ここでSU(2)に戻りましょう。まずはSU(2)のユニタリ表現を決めます。表現空間として、z₁z₂について、m次複素係数同次多項式f(z₁,z₂)を考えます。z₁の肩の数字とz₂の肩の数字を足したらmになるわけですね。これはm+1次元複素ベクトル空間となります。SU(2)の各元gをこいつへの一次変換ρ(g)として表してやります。さて、SU(2)は2×2行列なので、4成分a~dを持ちます。(第1行が(a,b)です。)こいつを使って、

ρ(f(z₁,z₂))=f(az₁+cz₂,bz₁+dz₂)

と変換しましょう。するとこれはちゃんと表現になっています。しかもこの表現は、次のようにf上の内積を決めるとこれを不変に保つ、すなわちユニタリ表現です。入れる内積は、(z₁^k)(z₂^(m-k))が直交するようなf:id:teru_chibesuna:20240624125400j:image

です。以上より、fは完全可約表現であることがわかりました。(ユニタリ表現は完全可約、でしたね!)

最後に、ρの既約性を示します。SU(2)の元は対角成分がa,a^-1(その他の成分0)であるような行列Aふたつと回転行列Rの積でかけます。(オイラー角を思い出してください。オイラー角はある軸周りの回転、その軸の回転、ある軸周りの回転で与えられましたね)すなわち、SU(2)の表現ρが他のなんらかの変換Xと可換な時、ρ(A)とX、ρ(R)とXが可換である必要があります。これを使ってガチャガチャやるとXはスカラー変換であることが示せます。これでρはシューアのレンマより既約です。

まとめると、SU(2)のひとつの表現ρは既約表現です。特に、m+1次元ベクトル空間への表現をρ_mと書いて、「最高ウェイトmの既約表現」と呼んだりします。これにより、1対2対応に注意すればSO(3)の既約表現もゲット出来ました。

ここで、残っている課題は「ほんとにこれ(ρ)が唯一の既約表現なの?」ということと、「SU(2)の任意の表現は完全可約ってほんと?」と言うふたつです。実はこのふたつはどちらも真なんですが、これを示すにはもう少し勉強が必要です。

本当はこの後に不変積分の話とかがあるのですが、長くなってきたので一旦おしまいにします。次回を乞うご期待!